コトノハ雑記帳 ~ことば、文化のあれこれ語ります

外国語、異文化交流の仕事に関わりはや20年。日本にいて日々感じる、日本語、外国語、文化の違いなどについてつぶやきます。

アメリカ「自警団」の台頭、そして”militia”という語

トランプ大統領とバイデン氏の息詰まる攻防が続き、どちらに転んでもおかしくない様相を呈しているアメリカ大統領選。そんな中、アメリカ国内で「自警団」、"militia"と呼ばれる組織が全米各地で台頭してきました。

 

「自警団」という存在、その言葉の響きが、いかにもアメリカらしいと思います。銃を持ち自分の身は自分で守る、開拓時代から脈々と受け継がれる自立の精神は、やはりアメリカ人の文化的コアの一部なのでしょう。銃を規制しようとすれば必ず議論が沸騰し、なかなか手放そうとしない層が多く存在するのも、その精神性から来るものだと思います。日本(人)で言えば何がそれに対応するでしょう…? いい例がすぐ思い浮かびませんが、お祭りでの「ケンカ神輿」はあぶないから規制・廃止しろ、と言っても、「日本古来の伝統にケチつけるのか」と、かたくなに反対する人が必ず出る、そんな感覚でしょうか…? すみません、脱線しました!

 

「自警団」は"militiaという語がつかわれている、いや逆に、militiaという語に日本のマスコミが「自警団」という語をあてているようですが、果たして的確な表現なのでしょうか?

 

手元の英和辞書(新グローバル英和辞典 第2版 [三省堂])には、以下のように出てきます。(n. )

 

militia …(名)義勇軍、市民軍、民兵

 

どちらかと言うと、自分の周囲を「自警」=”守る”というよりは、積極的に外に出ていって戦う、そんなイメージでしょうか。浦澤直樹先生の漫画、『パイナップルアーミー』『Master キートン』などに出てくる、「傭兵部隊」のようなイメージかと思います。

 

かたや「自警団」を調べてみますと(同新グローバル英和辞典)、

 

vigilance committee…(名)自警団

 

がヒットします。vigilante(自警団員)、vigil(寝ずの番)も類縁語ですね。

 

こちらの語の方が、本来はよく想像されるような「自警団」に近いイメージなのでしょう。よって、現在アメリカで結成されているmilitiaは、どちらかといえば「義勇兵」というような、よりアグレッシブな、外的を積極的に排除するという意味合いを持つ組織なのでしょうね。考えてみれば、持っている銃もものものしいものばかりで軍人のようですし、日本の自治体でごく稀にみる棒だけを構えた「自警団」とはやはり質を異にするものなのでしょう。

 

ちなみにmilitiaの発音、大変恥ずかしながらこれまで「ミリティア」と思っていましたが、正しくは「ミ(メ)リシア(シャ)」(məlíʃə)となり、「t」部分は擦過音なのですね。考えてみれば、initial、confidentialなど、同じような発音をする語はたくさんありました。強いて言い訳(笑)するとすれば、militiaはtiの後が母音で終わるという、珍しいパターンの語であったということくらいですが(ちなみにラテン語起源の語のようです)、いずれにしてもお恥ずかしい限りです…笑。この点では、マスコミの表記が正しかったですね。